特集(人類と感染症の歴史-1) -戦争と平和、そして人権-

感染症は人類の歴史と共にあった!
13,000年前、人類は家畜を飼うことを始めた。その家畜から人に感染症が広まった。ミイラにある天然痘の痕跡や、壁画に残るポリオの委縮した足から、その事が伺える。ペストは14世紀にヨーロッパで大流行して、当時のヨーロッパの人口の3分の1が死亡したといわれている。得体の知れない感染症に対する恐怖は、『デカメロン』を始めとする文学や絵画など様々な芸術を生み出した。そしてその後も、新たな感染症が、次から次へ出現している。そしてその周期は、どんどん短くなって来ている…。
大量死の原因 
容易に死に至る病こそは、人類の歴史において人々に最も強い不安をもたらしてきた。天変地異やケガなど目に見える苦るしさは、当人は苦しいけれども、得体の知れないという恐怖心はおこらない。人類史における大量死の原因として、自然災害や戦争・ホロコーストがあげられる。しかし現在の推計によれば感染症こそ最大の原因であると言われている。

■感染症 (表1)
スペイン
風邪
5000万人 (1918~20年)
ペスト
7500万人 (1347~51年)

■戦争 (表2)
第一次世界大戦

900万人 (1914~18年)
太平天国の乱

数千万人 (1851~64年)
第二次世界大戦
5000万人 (1939~45年)

■ホロコースト・大量虐殺 (表3)
ナチの
ユダヤ人虐殺
600万人 (1933~45年)
スターリン
による粛清
1200万人 (1937~53年)
蒙古族による
中国農民虐殺
3500万人 (1311~40年)

表1~3.人類の大量死の主な原因(推計)(参考文献:加藤茂孝著『人類と感染症の歴史』2013年)
感染症の怖さとは
感染症の怖さの主な原因は、古来「症状の激しさ」「死亡率の高さ」「死体の醜さ」などが多かった。ただし、心理的には原因が可視的でなく得体の知れない時にこそ恐怖が高くなるものであるようだ。今、流行している「新型コロナウィルス」に恐怖を覚え、他人に攻撃的になることがあるのも、不明なことが多いため、不安から自己防衛反応が起きてしまうのではないかと言われている。
歴史上の主なパンデミック
社会と文明を特徴づける疾病の流行があった
13
世紀
ハンセン病
熱帯の風土病が十字軍の移動で西欧へ
14
世紀
ペスト(黒死病)
クマネズミの移動、蒙古軍の移動の後を追って西欧へ
15
世紀
梅毒
大航海時代以降蔓延。ルネサンスの性の解放で拍車
17
世紀
天然痘
古代インドが発生地?仏教伝搬やシルクロード経由で拡散
19
世紀
結核
産業革命、過激な労働条件、都市への人口流入
19
世紀
コレラ
ガンジス川流域が発生地、イギリスのインド経営で西欧へ
19
世紀
発疹チフス
ナポレオンのロシア遠征、クリミア戦争、第一次世界大戦、ロシア革命で流行
20
世紀
インフルエンザ
密集した集団生活と迅速な輸送手段で急拡散
21
世紀
SARS
MERS
COVID-19
グローバル社会の発展で急拡散
このように、戦争や交易などによる大量の人の移動が感染症の大流行に大きな影響を与えている。また、インカ帝国やアステカ帝国の崩壊も実は、西欧から新大陸に天然痘流行の持ち込みがあったのが大きな要因となって、人口と文化ともども衰退消滅したのだとも言われている。
 
参考文献:加藤茂孝著『人類と感染症の歴史』2013年、『続・人類と感染症の歴史』2018年丸善出版、国立感染症研究所 岡田晴恵著『歴史をつくった7大伝染病』2008年PHP研究所